白い紙を綴りましょう

▼01

 授業は1コマ50分。その間ずっと、突き刺さるような視線を感じ続ける。視線は2カ所から、合計4つの瞳。
 教室のほぼ中心から1人。眼鏡越しに見つめる目は、熱心に授業を受けているものではない。黒板を見つめているというならともかく、私だけを追っているその目は、私の一挙一動をすべて観察するかのような鋭さをもっているのだから。
 もう1人、こちらは教室の窓際最後尾。陽のあたる暖かな席のその生徒は、他の授業はすべて睡眠に費やしていると聞く。火傷をしそうな熱をはらむ、まさに熱視線。

「堀地、放課後指導室に来なさい」

 放課後の貴重な時間を潰されるのが嫌なのは生徒も教師も変わらない。問題児なんて、できることならノータッチでいたい。しかも、相手は堀地。私の授業だけは無断欠課したことがないという理由で、学年主任直々に拒否権のないお願いをされてしまった。

 ――火傷どころではすまない。

 そんな気はしていた。






「せんせー。加美せんせー。わざわざ指導室くんだりまで来てやりましたよー」
 校則違反の茶色い髪をかき上げながら、堀地が姿を現した。あぁ、ピアス発見。指導項目に追加しなくては。

「呼ばれた理由はわかってますよね? 手短にいきます。真面目に授業を受けなさい」
「そうだなぁ……。せんせーがお願いきいてくれるなら考えるけど」

 狭い室内で、わざわざそんなに近くまで寄らなくてもいいだろう。体格のいい堀地を見上げる格好になってしまう。今から指導をする側としては、少々情けない。

「何ですか? 何か問題があるんでしたら相談にはのりますよ?」
 そう思いながらも、笑顔を浮かべ“良い教師”を装う。
「相談っていうか。まぁ簡単なことだって」

「せんせ、やらせて」






 ――熱い熱い、穴が開くような。そんな目で見つめないで。

 気がつけば応接セットのソファーに押し倒されて、真正面から視線がぶつかる。
 逃げる? 突き飛ばす?
 できるわけがなかった。だって、指どころか視線さえ外せない。捕まってしまったのだ。

 固まったままの私に、堀地がぶつかった。
 細かく言うと、堀地の唇が、私の唇に、ぶつかった。平たく言うと、噛みつかれた。

「っ! な、なにするんですか……!!」
「ちょっと黙って。ここ、ガッコ」
 思わず口を押さえた両手を、堀地の片手に拘束された。
「そうだ……、ってそうじゃなくて! やめなさい!」
「焦っちゃって可愛いなー。でも、知ってただろ? 指導室なんてソファーもあるし、鍵もかかるし。やばいなぁってことくらいはさぁ」
 堀地の唇が首筋を撫でながら呟く。いつの間にかシャツは肌蹴ていて、真っ白な腹部までさらけ出してしまっている。

「人なんて来ないって。……多分」
「た、多分って……ん、んん……っ!」

 再度唇をふさがれ、くぐもった声が漏れる。背筋が騒ぐのは、快感などではない。決して。
 そう思っても、荒っぽい見た目に反した繊細な愛撫に頬が上気する。舌先で上顎をなぞって、そのまま舌を絡める。ああ、もう口のまわりはお互いの唾液でドロドロだ。視界はぼやけるし、腕にも力が入らない。手首を拘束する堀地の手は、もう軽く握っているだけ。
 腰が抜けそうというのはこういうことを言うのか、などと考えて現実逃避していると、唐突に沈黙が破られた。

「あ、ちょっと遅かったかな? 兄さんは手が早いなぁ」




 「兄さんとか言うなよ、鳥肌がたつだろ」
 驚愕でまたもや思考が停止する。現れたのは来栖だった。後ろ手でドアに鍵をかけ、こちらへ近づいてくる。
「抜け駆けはね、良くないよ」

 いつもの、あの観察するような、どこまでも見透かされているような目で私を見る。
「加美先生、いい格好ですね」
「き、来栖……! 見るな……!」

 聞こえない、とでも言うようににこりと笑う。
「僕は3人でも構わないけど」
「仕方ねぇなー。混ぜてやるよ」

 堀地が背後へと移動し、膝へと乗せられた。臀部と股間が密着して、熱を持った堀地を感じる。すると、ソファーの足元に跪いた来栖に、張りつめたスラックスの前を寛げられた。
潔癖そうな顔にまるで聖人のような微笑みを浮かべ、私の性器を口に含む来栖はとても倒錯的だった。

「んなっ! やめなさ…ぁあっ!」
 性器に直接的な刺激を与えられ、太腿の筋肉が緊張してビクビクと体が跳ねる。

「っあ、あああ……あ、あぁ…んっ」
「ん? なんだ、言えよ。加美せんせ?」

 乳首はこれでもかというほど赤く腫れて、堀地の指でグリグリと握られるたびに痛みと共に痺れるような快感を伝えてくる。耳を甘噛みされ、涙が滲む目元も、唾液が溢れる口も、全てを舐めとるように舌を這わされる。

「はぁ……も、やめっ……だめ、です……っ!」
「もうイきそうなんですか? 早いですね」
 上半身も下半身も余すところなく弄り回されて耐えられる人間がいたら見てみたいものだ。
 イけないように根元を指で締めつけた性器を、音を立てて吸い上げられる。

「でも、まだおあずけですよ」

 来栖の薄い唇が笑みの形に歪んだ。




「股おっぴろげたせんせーもすげぇソソるけど」
「僕らのことも気持ち良くしてくださいね?」

 ソファーから降ろされ、床で四つん這いの姿勢をとらされる。先程イき損ねた性器は唾液と先走りで濡れ、ジクジクと疼く。
「んぁ、あっ! はぁっ……ん!」
 揃えた太腿の間から熱い塊りをねじ込まれ、勃起した性器の裏を擦り上げられた。
「素股なんて初めてやるけど。結構イイのな、コレ」
 私の腿で性器を扱き、軽く息を乱した堀地が耳もとで呟く。

「こっちもお願いしますね」
 来栖が前をくつろげて、既にガチガチに硬くなったモノを口元へ差し出す。
 咥えろとでも言うのだろうか。嫌だと首を振るも、柔らかい口調とは裏腹に、強い力で頭を掴まれ無理やり口をこじ開けられる。

「そうやって反抗的な先生も可愛いですけど。いつまで経っても終わらないですよ?」
「っ! んんっ……!」
「ほら、咥えて。そう、舐めてください」
「そっちばっかに集中すんなよ。ほら、こっちも気持ちいいだろ?」

 後ろには堀地、前には来栖。
 左右の耳にそれぞれ囁かれ、吹きかけられる吐息にさえ、震えるほどに感じてしまう。


 ――あぁ、そうだ。2人の視線はよく似てる。

 2人の熱に溺れて真っ白な頭で思ったのはそんなことだった。

end

 

2010.4.5 

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