最高気温は37度。オレの平熱より2度も上。
「アイス買ってきて……」
体温のコントロールがうまくいかない。処理できない熱が体中をドロドロ溶かして、多分、脳ミソもトロトロ。
丁度、目の前にあるアイスみたいに。
「あるじゃん。これ食べないの」
「だって、もう冷たくない」
「もったいない」
オレが放棄したアイスはサトウの口へ。まだ残ってるけど、溶けたアイスはアイスじゃない。オレにとっては食べ物でさえない。ただただ舌に残る味だし、不愉快極まりない。嫌なモノは嫌だ。好きなものにだけ、囲まれていたい。
ここはサトウが借りてるアパートだけど、オレも一緒に住んでるようなものだから、オレのもので溢れている。一緒に住みたいって言ったのに、サトウはケジメだなんだって言って聞いてくれなかったから、押し掛けてやることにした。だから、ここはオレの好きなものだけで構成された、二人の秘密基地だ。
「甘い」
サトウはあんまり甘いものは好きじゃない。それでも食べる。ばあちゃんっ子はもったいないのが大嫌い。
嘘くさいバニラの匂いで口を塞がれて、舌を絡めとられる。サトウとオレの体温で液体化した元、アイスがグチャグチャになった口の周りにべた付いた。
溶けて溶けて流れ出て、甘ったるいバニラアイスよりも甘い熱を抱えて。
頭は痛いし吐き気はするし、立派に熱中症なのだけど、サトウとくっつくのは好き。だから、運動で汗をかいて体温を下げることにした。
脚を絡めて床に押し倒す。何も言わなくても、サトウは頭良いし空気読めるし、大丈夫。我ながら、ほんとイイ世話役が見つかったなぁ、なんて思うくらいだ。
「シオミ……」
呼ばれて、今度は逆に押し倒された。上下逆転。やっぱりこっちの方がしっくりくる。
オレの頬を撫でていたサトウの手を取る。そして、アイスキャンディー代わりにべろりとひと舐め。しょっぱいけど、まぁ、これが人体の味だ。それも、夏季限定の。
そういえば、初めてしたキスもしょっぱかった。去年の夏の事だ。西日差しこむ教室で。想い出は結構ロマンチックで、サトウはそのあたりも抜かりない。顔は普通でも、気の利くイイ男だ。オレも釣った獲物にはちゃんと餌を与える、イイご主人様にならなくては。
サトウの唇を奪って、「早く」と囁いた。それだけで餌やりは終了。次はオレが貰う番。
同居はダメだって断ったくせに、サトウの家は結構広い。代わりに、もの凄くボロイけど。
残り僅かだった体力を根こそぎ使い果たして、もう指一本も動かない。畳にパンツ一枚で寝っ転がって、死んだ振り。ガチガチの理系のクセに意外に体力のあるサトウは、もう立ちあがってタオルを引っ張り出している。
骨っぽい背中を眺めながら、優秀な恋人兼下僕にオレからの指令を下す。
「サトウ、アイス買ってきて」
end
最近暑いね……。