SUGAR and SALT

#02 かき氷


ドロドロしたドピンクの、冷たい冷たいかき氷。
大学の西門、食堂が連なる細い道。夏の間だけ下げられる紺色の暖簾。曰く、『冷やし中華始めました』だの、一文字ででかく『氷』だの。
暑い店の外にまでテーブルを出して、手動のかき氷機を忙しなく回すおばちゃん。年季が入ってるのは彼女も氷を削る機械も同じ。そんな事を口にしたらとても怒られそうだけど。

「おばちゃん、かき氷! いちごシロップで!!」
いやいやいや、普段暑さで溶けかかってる人間とは思えない元気さだな。
真っ白な肌に細い身体。シオミは見た目通りに、とても熱さに弱い。夏の間は食事を摂らせるのに苦労する。シオミの体調管理もオレの仕事。自己都合もあるんだけどね。だって、シオミがへたばってたらエッチできないし。
炭水化物を食わすのはあんなに苦労するのに、かき氷の文字だけでシオミのHPは復活。オレの甲斐甲斐しい世話は報われない。
「あ、おばちゃんケチー。シロップもっとつゆだくで!」
なぁ、シオミ。シロップもつゆだくって言うのか? それは牛丼に対する表現じゃないのか?
お前にあんな得体のしれない安物は食わさないからな。健康な生活と満足いく性生活はきちんとした食事からなんだぞ。何のためにオレが毎食毎食あんなに頑張ってると思ってるんだ。お母さん泣きそう。

「おいしい〜。生き返る〜」
毒々しい合成着色料で色付けされた雪の様なソレを、さも幸福そうな表情で味わうシオミ。チラチラと見える舌にまでピンクの色が着いて、たまらなくエロイ。唇も紅を差したように赤いし、ここが外じゃなかったら確実に押し倒しているところ。

「あ、なに。欲しいの?」
「え、いや……」
ピンクに染まった氷のかたまりをじっと見つめていたら、物欲しそうに見えたのか。違うんだ、かき氷の事すら考えていなかった。お前が牛丼屋に行った事があるのかどうか、そこが問題なんだ。ついでに言うなら、真昼の太陽の下には相応しくない事も考えていたんだ。
大学は同じでも学部が違うと、小クラス講義での付き合いなんかまでは把握しきれないからな。一々チェックしてやりたいが、そこまでしたら多分引かれる。逃げはしないだろうけど、それでもこっそりヒミツを作る事を覚えてしまうかも。
シオミは子供みたいにオープンな所も魅力なんだ、変なところだけ大人になんてならないで。
それに、そんな虫歯のかたまりは要らない。そう言おうとしたんだけど。
「はい」
目の前に差し出されたちゃっちいプラスチックのスプーンに食らいついてしまった。


end

 

受けも攻めも馬鹿。

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