SUGAR and SALT

#03 扇風機


「あーつーいー……」
サトウの部屋、室温は38度。多分。でもそれくらいはあるよ、だって頭痛いもん。俺の体温は気温と共に変化するからね。変温動物って言ったのはサトウだし。
「クーラーをつけてください……。死んでしまいます」
「壊れた」
瀕死の俺に対し、サトウの口から出たのは無常なひと言。サトウはいつもと変わらず涼しそうな顔だ。団扇で熱風を送ってくるが、暑いものは暑い。
全く、酷い恋人だ。昨夜限界までヤり尽したのは誰だ。サトウだろう。襲ったのは俺だったけど。
「嘘ぉ!」
「うん、嘘」
はい、嘘。
「って嘘つくなこのヤロウ。酷い酷い、本気で溶ける。これ以上馬鹿になったらサトウ責任とれよ」
「しがない貧乏学生デスカラ。責任ならばっちり任せろ。なんなら外国まで行ってやるから」
何が無くとも責任はとってもらうつもりだからいいけどね。サトウはずっと俺だけのもの。サラッとプロポーズしてくれるこんなイイ男はそうそういない。酷いって思ってゴメンね。
「溶ける……」
脳みそからドロドロにいくのかな。ピンクだといいな。昨日イチゴシロップ食べたし。
ひんやりしたフローリングが気持ちいい。自分の体温で温まったらゴロンと横へ移動。キレイ好きのサトウくんちは床も転がり放題だ。だけど、俺の事が好きなら熱中症対策に冷房くらい入れてよ、マイダーリン。
「シオミ」
「暑い」
暑い暑い暑い。脳内にリフレイン。口から出るのもこれだけ。もうアイスもかき氷も食べられない。夏って本当にこわい。でも、一応サトウとのお付き合いは夏に始まったので、嫌いじゃあない。
「実は扇風機があったんだ」
「……嘘!」
「いや、ほんと」
目の前に置かれた扇風機。自慢気なサトウ。思わず抱きついてほっぺたにチュウ。途端にサトウの顔がデレっと崩れる。
サトウが行きつけのアンティークショップで見つけた扇風機の扇さん。このダサいネーミングは勿論サトウ。理系のくせに妙にアンティークだの歴史だのが大好きなサトウは蚤の市も大好き。
昔ながらのボタンスイッチをポチっとひと押ししたのだが。御年五十歳の年代物、彼女は既に現役を引退していた……。


end

 

短ッ!

▲TOP   ▲INDEX